京都地方裁判所 昭和33年(わ)1170号 判決 1961年4月26日
被告人 沢野幸太郎 外五名
主文
被告人沢野を罰金参万円に、被告人森田、同広瀬、同井上、同篠本を各罰金弐万円に、被告人木田を罰金壱万五千円に処する。
被告人等において、右罰金を完納することができないときは金五百円を壱日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。
押収してある現金壱万円(昭和三十三年領置第二百十五号の十一)はこれを没収する。
訴訟費用は全部被告人等の連帯負担とする。
理由
罪となるべき事実
被告人沢野は京都市中京区西ノ京御輿岡町二十九番地七土木建築請負業株式会社長村組の常務取締役、被告人森田は同市伏見区醍醐東合場町土木建築請負業森田土建株式会社の代表者代表取締役、被告人広瀬は同市左京区田中馬場町八番地土木建築請負業広瀬組こと広瀬石松の従業員、被告人井上は同市左京区田中里ノ内町五十一番地土木建築請負業相互建設工業株式会社の代表者代表取締役、被告人篠本は同市左京区田中上玄京町十七番地土木建築請負業株式会社清工務店の取締役、被告人木田は同市中京区丸太町千本西入る土木建築請負業大京土木建築工業株式会社の社員(土木主任)として、いづれも土木建築工事の入札等の業務を担当していたものであるが、それぞれその所属する右会社または業者が、京都市から、昭和三十二年九月十一日を入札日とする同市施行の、同市左京区大原大見町地内大見川筋河川復旧工事の指名競争入札者に指定されたので、同じようにその指定を受けた土木建築請負業株式会社三原組の代表者代表取締役三原八之助及び上田八重吉、笹原兼造等と共謀の上公正な価格を害しまたは不正の利益を得ることを目的とする談合により落札者を決めようと企て、同月九日夜同市中京区六角通河原町西入松ヶ枝町六十八番地広東料理店太平楽こと陳福官方において、被告人沢野の指示によりその処置を任された同所属会社の土木部長桐山日出一、被告人森田の指示によりその処置を任された同所属会社の社員北川吉次郎、被告人広瀬、同井上、同篠本、同木田及び右上田、笹原が飲食を共にしながら、上田の司会斡旋により、落札希望者間の相互の調整をはかり協議をかさねた結果、被告人沢野の所属する株式会社長村組が、各自の競争入札希望額金二百五十万円乃至二百六十万円位を超えた金二百六十七万円で入札し、その余の被告人所属の会社または業者が、それぞれ金二百七十万円以上で入札することによつて、株式会社長村組に該工事を落札させ、同会社がその代償として、右落札額の三分にあたる金八万百円を談合金名下にその余の被告人所属の会社または業者に贈与し、且つ、同日の右太平楽における飲食遊興費全額金六千円位を負担する旨の協定を結び、以て、公の入札について、その公正な価格を害し、且つ不正の利益を得る目的で談合したものである。
証拠の標目(略)
法令の適用
被告人等の判示各所為は、刑法第六十条、第九十六条の三第二項、罰金等臨時措置法第三条にあたるので、それぞれその所定刑中罰金刑を選択した上、その額の範囲内において被告人等を主文第一項掲記の通り量刑処断し、換刑処分について刑法第十八条を、没収について同法第十九条を、訴訟費用の負担について刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条を適用する。
弁護人の主張に対する判断
弁護人三木今二は、刑法第九十六条の三第二項の規定は、公の競売または入札について、その公正な価格を害し、または不正の利益を得る目的をもつて談合した者のみを罪として処罰し、一般民間の入札等におけるそれを除外しているので、憲法第十四条の規定に違反し無効であると主張する。
おもうに、各個人は、すべて人間として平等の価値を有するものと考えられ、その基本的人権を保障するにも、その義務を賦課するにも、平等の取扱いをしなければならない。憲法第十四条は、この法の下における国民平等の原則を宣明し、すべて国民は、人権、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において差別されない旨を規定している。
ところで、刑法第九十六条の三第二項は、公の競売または入札について、その公正な価格を害し、または不正の利益を得る目的をもつて談合した場合に、これを罪として規定し、その所為に出た者に対しては、均しくその罪責を問うものとし、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、その処遇について何らの差別をもしていない。
また刑法は、右条項において、公の競売または入札をもつて特別構成要件の一つにあげ、私の競売または入札について何らの規定を設けないことによつて、公の競売または入札について談合した者と、私の競売または入札について談合した者とを別異に取扱つているが、これは、私の競売または入札の場合に比して、公のそれの場合に、談合による実際上の弊害が顕著に認められ、ことは公共の利益に係るからであつて、その別異に取扱うべき合理的根拠をここに見出だすことができるのみならず、憲法第十四条が、国民を政治的、経済的または社会的関係において、原則として平等に取扱うべきことを規定したのは、国民の基本的権利義務に関して、その地位を主体の立場から観念したものであり、国民が、その関係する各個の法律関係においてそれぞれの対象の差に従つて別異の取扱いを受けることまでも禁止しようとする趣旨を含むものと解すべきでないので、公の競売または入札についての談合のみを刑法上罪として規定し、私の競売または入札についての談合を除外したからといつて、これを単に立法政策上の見地から論議するは格別、右の差異を目して、刑法第九十六条の三第二項の規定が、憲法第十四条の規定の趣旨に背馳すると即断することはできない。
よつて、刑法第九十六条の三第二項の規定は、憲法第十四条の規定の趣旨に適合し、なおその効力を存するものとゆうべく、弁護人の右主張はこれを採ることができない。
以上の理由により、主文の通り判決する。
(裁判官 橋本盛三郎)